「むかーし、ある村に利助という、たいそう親孝行の若者がおったそうな。…」
の語りで始まる『まんが日本昔ばなし』。
子供だけでなく、大人も楽しめる良質なテレビ番組があった。
毎日放送制作でTBS系列で放映された長寿番組である。
初回放送が1975年で全国ネットの放送では1994年まで放送された。
全国ネットでは39シリーズ、952回放送され、視聴率の低迷により、その後は毎日放送によるローカル放映に移行した。
途中休止や過去作品の再放送を行いながら2006年まで放送された。
今もなお放送を望む声も多く、DVD化の要望も毎日放送の掲示板に多く寄せられている。
DVD化は権利関係の問題があって、中々難しいようで、魅力的で膨大なコンテンツが眠っているのは勿体無い限りだ。
番組の監修には、月光仮面や森進一のおふくろさん騒動で怒っていた川内康範が携わっている。
一話一話の作品毎にトップクラスのイラストレーターやアニメーターに制作を依頼し、音楽もジャンルに囚われず作品にマッチした曲を採用した。
そして、なんと言っても語りを担当した市原悦子さんと常田富士男さんの存在が番組の成功に大きく寄与した。
老人から青年、子供、男女、農民、侍、金持ちから貧乏人、山姥や鬼などなど、ありとあらゆる役を二人で演じた。
個性的で独特の雰囲気を持つお二人だが、さすが一流の役者と感嘆させられる演技で作品のグレードは高い完成度に仕上がっていた。
作品の影響で日本広告機構の『もったいないお化け』のCMも制作された。
人気がピークだった1980年代前半には30%を超える視聴率があったそうだ。
作品を支えているのは素晴らしいスタッフやキャストだけではない。
日本には古くから伝えられた伝承話が数多くあったことだ。
952回を超える作品を作るためには2000話に及ぶ物語が必要であり、内容が面白い物となると更に多くの物語から選ばれて作品になっているだろう。
それだけ多くの伝承話が存在すること自体が凄いことだ。
金太郎、桃太郎、さるかに合戦、かちかち山やしたきり雀などのメジャーな物語だけでなく、どこかの県の山村に伝わる妖怪話や奇譚など、微笑ましい物から怪談まで幅広いジャンルの伝承が存在する。
伝承話には、教訓や戒めが込められているものが多く、説教するのではなく、物語を読み聞かせることで、自分で考えさせるという、とても利にかなっている。
子供に欲が過ぎると良いことはないと言って聞かせてもピンとこないが、こぶとり爺さんの話を聞けば、説教することなく強欲は良くないと感じるだろう。
山に住む鬼や山姥の寓話も、危険な場所に一人で行ってはいけないという警告であり、子供を危険から守る知恵でもある。
だから、むかし話は全てハッピーエンドではなく、理解出来ない理不尽な話も多い。
『十六人谷』というお話が中々怖い。
昔々、ある山村に住む木こりの青年が謎めいた美しい女性から山にある柳の大木を切らないように頼まれる。
そんな出来事があり、いく日か経ったある日、村の木こり仲間と山の木を切りに山に入って行くことになった。
木を切りながら、奥に進んで行くと謎の女が言っていた立派な柳の大木を見つけた。
立派な木を目にした木こり達は、若者の言うことに聞く耳を持たず、大木を切り倒してしまうのであった。
山小屋に戻った木こり達は大木を手に入れたことに浮かれて、酒盛りをして、疲れのせいか早く眠ってしまった。
真夜中、物音に気付き若者が目を覚ますと、あの謎の女が木こり達の口に吸い付き舌を食いちぎっていた。
女は凄い形相で若者に、「あなたは良い人だと思ったのに、なぜ柳の木を切った。」と問いかけるのであった。
あまりの恐ろしさに、若者は慌てて山を駆け下り、命拾いをした。
今や老人となった若者は、そんな昔体験した話を家を訪ねてきた若い女性に話すのであった。
明る朝、老人の世話をしに近所のおかみさんが食事を持って、老人の家にやって来た。
おかみさんが戸を開けると、恍惚とした表情で舌を食いちぎられて死んでいる老人の姿があった。
女性が何者だったかも明かされず、謎のままお話は終わる。
神秘的な物に対する恐怖や畏敬の念を伝えるお話だ。
気の弱い子供ならトラウマになりそうなお話である。
怖いだけでなく、色々と考えさせるお話だ。
こんな感じで、昔ばなしには深い意味を込めたお話が沢山ある。
今の時代には視聴率が取れないのかも知れないが、子供達に見せてあげたい素晴らしい番組だった。
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